「彼女は16歳ぐらいに見えた」。質屋を営む中年男は妻との初めての出会いをそう回想する。安物のカメラやキリスト像を質に出す、若く美しいがひどく貧しい女と出会った男は、「あなたの望みは愛ではなく結婚だわ」と指摘する彼女を説き伏せ結婚する。質素ながらも順調そうに見えた結婚生活だったが、妻のまなざしの変化に気づいたとき、夫の胸に嫉妬と不安がよぎる......。衝撃的なオープニングから始まる本作は、一組の夫婦に起こる感情の変化と微妙なすれ違いを丹念に描き、夫婦とは、愛とは何かという根源的な問いを投げかける。
『抵抗(レジスタンス)―死刑囚の手記より』(56)、『スリ』(59)、そして現在絶賛公開中の『田舎司祭の日記』(51)など、映画史に残る名作を生み出したロベール・ブレッソン監督。「罪と罰」「カラマーゾフの兄弟」などで知られる19世紀を代表するロシアの文豪、ドストエフスキー。このふたりの強力なコラボが実現した奇跡的な傑作『やさしい女』を、ドストエフスキー生誕200年の2021年にリバイバル上映。ブレッソンの初カラー作品がデジタル・リマスター版でよみがえる。