2025年8月。日本はあの戦争の終結から80年の節目を迎えます。
そして、もし----
この物語の主人公・すずが、この世界のどこかで今も暮らし続けているならば、----今年、百歳。
こうの史代による同名漫画を原作に、片渕須直が監督・脚本を手がけた長編アニメーション映画『この世界の片隅に』(2016年公開)が、全国の映画館に帰ってきます。
戦時下の広島・呉を舞台に、大切なものを失いながらも毎日を営み続ける女性・すずを描いた本作。
公開当初は63館でのスタートながら、かけがえのない日常とその中で紡がれる小さな人の気持ちが共感を呼び、観客の声に押されて公開が拡大。累計484館、総動員数210万人を超える社会現象になりました。
さらに、第40回日本アカデミー賞 最優秀アニメーション作品賞ほか、第90回キネマ旬報ベスト・テン日本映画第1位など、アニメーション映画としては異例となる日本映画賞を次々と受賞。その評価は海を越え、国際的な映画祭でも高く評価されました。
あれから9年。時は流れても変わらず心に残り続ける物語が、期間限定で劇場の大スクリーンによみがえります。
炊事の湯気、絵の具の匂い、バケツの重さ、ほほをなでる風。
なにげない日々の中に、たしかにあった命の灯り。
すずが見つめていた"片隅"から、
80年の時を経て、いまを生きる私たちへ。
1994(昭和19)年2月。18歳のすずは、突然の縁談で軍港の街・呉へとお嫁に行くことになる。新しい家族には、夫・周作、そして周作の両親や義姉・径子、姪・晴美。配給物資がだんだん減っていく中でも、すずは工夫を凝らして食卓をにぎわせ、衣服を作り直し、時には好きな絵を描き、毎日のくらしを積み重ねていく。
1945(昭和20)年3月。呉は、空を埋め尽くすほどの艦載機による空襲にさらされ、すずが大切にしていたものが失われていく。それでも毎日は続く。
そして昭和20年の夏がやってくる―。
『この世界の片隅に』で北条すずさんの声を演じました。のんです。
すずさんは、絵を描きます。
美味しいご飯を食べます。
家の仕事をしたり、家族で出かけたり、デートしたりします。
日々を過ごしていく中で、現代の日本との違いが浮かび上がってくる。
そして、見ていくうちになんでもない日常の幸せに心が溶けていくような心地になりました。
毎日が愛おしくなります。
この作品をまだ観たことのない方も観たことのある方もぜひ、劇場のスクリーンで観てみてください。
描いた時は、細くとも永く親しんでもらえるといいな、と思っていました。
映画に関わる皆様が強く育て、高く羽ばたかせてくれました。
今はただ頼もしく、誇らしく見守るばかりです。
感謝でいっぱいです!
戦時中という時代の中に生きた人々を理解したくてこの作品を作りました。
あの日々から80 年。
そこから地続きに連なる世界に私たちも生きています。
すずさんも100 歳になって、どこかで暮らしつづけているのかもしれません。
この映画が最初に公開されてから9 年。
世界は戦争から逃れられないでいます。
すずさんがそこで暮らしていたささやかな世界の片隅を、そのかけがえなさの意味を、もう一度感じてみたいと思います。
『この世界の片隅に【新装版】』(ゼノンコミックス/コアミックス)
著者:こうの史代 発売:コアミックス ©こうの史代/コアミックス
上巻、下巻 好評発売中