渡辺儀助 75 歳。元大学教授で今はリタイアし、妻に先立たれている彼は、朝起きる時間、食事、衣類、使う文房具一つに至るまでを丹念に扱い、預貯金の残高と生活費があと何年持つかを計算し、自分の寿命を知る。一見自己管理を徹底した生活を送っているように見えるが、時には晩酌を楽しみ、昔の教え子・鷹司靖子に不純な期待を持つような人間らしさも持ち合わせ、矛盾を抱えた人間味もある。だが、そんな一見穏やかな老後を過ごす儀助の元にある日「敵」が現れる・・・前半の穏やかな世界観を一変させてしまう物語の転換は、映像ならではの表現で我々に没入感を約束する。果たして「敵」とは一体何なのか。原作の筒井康隆は「すべてにわたり映像化不可能と思っていたものを、すべてにわたり映像化を実現していただけた。」と本作を絶賛。吉田監督は「自分自身、この先こういう映画は二度とつくれないと確信できるような映画になりました。」と自身の新境地を見せる。
渡辺儀助、75 歳。
大学教授の職を辞して 10 年―妻には先立たれ、祖父の代から続く日本家屋に暮らしている。料理は自分
でつくり、晩酌を楽しみ、多くの友人たちとは疎遠になったが、気の置けない僅かな友人と酒を飲み交わし、
時には教え子を招いてディナーを振る舞う。預貯金が後何年持つか、すなわち自身が後何年生きられるか
を計算しながら、来るべき日に向かって日常は完璧に平和に過ぎていく。遺言書も書いてある。もうやり残し
たことはない。
だがそんなある日、パソコンの画面に「敵がやって来る」と不穏なメッセージが流れてくる。