スイスアルプスをのぞむ小さな町で、障がいのある息子をひとり育てる仕立て屋のクローディーヌ。毎週火曜日、彼女は山間のリゾートホテルで一人旅の男性客を選んでは、その場限りのアヴァンチュールを楽しむ、もう一つの顔を持っている。そんな中現れたある男性との出逢いが、彼女の日常を大きく揺さぶることになる。もう恋を追いかけることなど想像もしなかったクローディーヌは、再び女として目覚めようとしていた......。
毎週火曜日、クローディーヌは山間を走る電車に乗り、大きなダムのほとりを歩いて高原のホテルへ向かう。
顔馴染みのホテルのボーイ、ナタンにチップを渡し、レストランにいる顧客について尋ねる。「あの男性客はひとり?」。
彼女は短期間だけ滞在する単身の男性を選び、そのテーブルに近づく。訊ねることはいつも同じだ。どこから来たのか。あなたの住んでいる街の様子を聞かせてほしい。やがて「部屋に行かない?」と自ら誘い、その場限りのアヴァンチュールを楽しむ。
低地の街にある自宅の隣家では、ダイアナ妃のことが大好きな障がいのある息子、バティストが、隣人シャンタルに介護されながら母親の帰りを待っている。仕立て屋のクローディーヌは家で仕事をし、甲斐甲斐しく息子の面倒をみている。父親はいない。行きつけのカフェで、時々海外から届く父親からの手紙をバティストに読むのが
習慣だ。もっとも、その手紙はクローディーヌ自身がホテルの客たちから聞いた話を元に書いているのだった。
本当の父親がどこにいるのかは誰も知らない。
そんなある日、いつものようにホテルに行くと、ナタンが「あるお客様からです」とワインを運んできた。その男、ドイツ人のミヒャエルと話を始める。ハンブルグに住み、水力発電の研究家である彼は、ダムのほとりで写真を撮っている際にクローディーヌの姿を目にしていた。ふたりで部屋に上がり、ゆっくりと服を脱ぐ。ミヒャエルはクローディーヌのブーツを優しく脱がせてやる。行為が終わると、彼女はいつものように礼を言って部屋を去るが、その日は何かが違った。
数日後、いつものようにクローディーヌがダムを通りかかるとミヒャエルが写真を撮っている。「また君に会えて嬉しい」。広大なダムを前に抱き合うふたり。その日、逢瀬を楽しんだ彼女はつい、帰りが遅くなる。隣家に置き去りにされたバティストから、「ママはぼくを忘れたんだね」と言われ、罪悪感で胸が張り裂けそうになる。
外出のあいだ息子を施設に預け、クローディーヌは再びホテルに行く。そこには、彼女を忘れられず滞在を延ばしたミヒャエルが居た。「アルゼンチンの仕事を引き受けた。一緒に来ないか?」。激しく動揺するものの、情熱に駆られ「あなたとアルゼンチンに行きたい」と彼女は呟く。
息子に、彼が好きな歌手ジョニー・ローガンの衣装を真似たスーツを仕立ててやりながら、「施設に泊まるのはどう?」と、それとなく訊ねるクローディーヌ。施設で見かけた女の子が気になる息子は、反対しない。
ついに旅立ちの朝、ダイアナ妃が事故で亡くなったというニュースが流れる。身を切られる思いで息子を施設に預け、スーツケースを持ってミヒャエルの待つ駅に向かうが…。