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最初の年 民意が生んだ、社会主義アジェンデ政権El primer año/The first year

変革の始まりを見つめて――
アジェンデ政権“最初の年”の記録

1970年、大統領選で勝利したサルバドール・アジェンデは、チリにおける初の社会主義政権を樹立した。『最初の年』は、その歴史的な瞬間から始まり、国家の再編に向けて動き出す社会の姿を追っていく。
カメラは、政府の土地改革政策に呼応して行動を始めるマプチェ先住民、工業国有化の現場で働く鉱山労働者、食糧供給や教育の改善に関わる市民たちの声を捉えていく。政治とは「遠いもの」ではなく、生活と直結する実践であるという認識が、民衆の間に広まりつつある過程が描かれる。
一方で、変革に反発する保守層の動きも徐々に表面化し始め、経済的混乱や政治的不安定さの兆しが社会に影を落とし始める。

監督・脚本
:パトリシオ・グスマン
プロデューサー
:マリア・テレサ・グスマン

1970年、チリ 変革の目撃者 パトリシオ・グスマン監督 幻の長編デビュー作

【INTRODUCTION】

『最初の年(El primer año)』は、チリのドキュメンタリー映画監督パトリシオ・グスマンが1972年に発表した長編デビュー作である。1970年、ラテンアメリカ史上初めて選挙で選ばれた社会主義大統領サルバドール・アジェンデが誕生し、国家規模の社会変革が始まった。本作は、その政権発足から1年間にわたる激動のプロセスを、国民の視点から丹念に描いている。

当時31歳だったグスマン監督は、映画学校卒業後すぐにチリ国内を縦断し、鉱山、農村、港、都市、学校と、あらゆる場所で人々の声を記録した。政府の政策が生活にもたらす影響、民衆の高揚感、変革への参加意識などが、鮮烈な映像と言葉によって伝えられている。社会の根底からの変化が進行する中で、既存の権力構造との軋轢や不穏な兆しも同時に記録されており、そのバランス感覚と歴史的洞察において、本作は単なる「記録」を超えた存在である。
反動勢力が動きを強めつつあった時期に、クーデターに先立って完成した『最初の年』。
そこには、いま振り返ると切なくなるほどの希望と可能性の光が満ちており、のちの作品群をいっそう胸を打つものにしている。
本作は1972年、チリで劇場公開され、後にフランスでも上映された。
その際にはフランスの映像作家であるクリス・マルケルがフランス語版を手がけた。
グスマンは後に、この作品の一部を『サルバドール・アジェンデ』(2004年)にも織り込んでいる。
だが、1973年にチリで起きた、サルバドール・アジェンデ政権を崩壊させた軍事クーデター後に多くのプリントが失われ、長きにわたって封印されていた。半世紀に及ぶグスマン監督監修下の修復作業の末、ついに再び息が吹き込まれた。映像作家のジョナス・メカスが設立者の一人であるニューヨークのアンソロジー・フィルム・アーカイヴズで、2Kレストア版が2023年9月に世界初上映された。
クーデターに燃やされた幻の一作が、日本でも遂に初公開となる。