作家セリーヌの「なしくずしの死」をゆっくりと読む子供のような声にいざなわれ、夜のパリを彷徨うふたつの孤独な魂の出会いを描く『ボーイ・ミーツ・ガール』。親友に恋人をとられたアレックスは、恋人とケンカしたミレーユと偶然出会う。一目惚れ、そしてやがてくる思わぬ悲劇が、コップの水が静かに溢れ出すような緊張感で語られる。
フロントガラスが割れた車の母子。セーヌ川の河岸での‟初めての殺人未遂‟。デヴィッド・ボウイを聞きながら夜の街をうつろうアレックス。ゴダールの『気狂いピエロ』を思い出させる奇妙なパーティー。出会いの瞬間に割れるグラス。アレックスとミレーユの夜更けの語らい――。記憶か夢の断片のような美しいシーンの連鎖と、アレックスの詩的で独白的な語りによって、夜の闘のなかをたゆたうように物語は進んでゆく。
当時、批評家セルジュ・ダネーはリベラシオン紙で「アレックスとミレーユの視線には何か今日的なものがある。若いが迷いはなく、彼らを取り巻く世界のよそ者で、必然的に抑えられた反抗の告白」と評した。『ボーイ・ミーツ・ガール』は80年代という時代感覚を色濃く伝える、カラックスの出発点となる長編デビュー作。
※当館では2Kコンバート上映となります。