華麗な映像と激越なドラマで多くのファンの心を揺さぶった『ポンヌフの恋人』(91年)から8年、レオス・カラックスは『ポーラX』で復活する。カラックスならではの濃密な映画世界がふたたびスクリーンに炸裂した。
19世紀半ばのアメリカ小説、ハーマン・メルヴィルの「ピエール」(1852)の映画化で、タイトルの『ポーラX』は小説の仏題"Pierre ou les ambiguité" (ピエール、あるいは曖昧なるもの)の頭文字Polaに謎のXをつけたもの。原作「ピエール」は「白鯨」の翌年にメルヴィルが熱狂のうちに書き上げ、その内容から「メルヴィル発狂す」とまで報じられた背徳的で虚無的な長編小説であり、カラックスは18歳の頃に読み「自分のために書かれたかのような奇妙な感覚」を抱いたという。それを泥沼のユーゴ内戦など20世紀末の文脈に置き直し、アクチュアルな話として、また自身の物語として読み直そうとした。主人公ピエールと姉かもしれぬイザベルは、混沌の中で血にまみれた奔流に溺れる双子の孤児のようだ。二人の絶望の深み、そしてその果てにあるあらゆる愛憎としがらみからの超越を、壮絶なロマンティシズムの物語として描いた『ポーラX』は、20世紀の映画シーンの終わりにカラックスが発した魂のメッセージだった。
本作はフランス・ドイツ・日本・スイス合作映画で、『ポンヌフの恋人』の製作費のせいでプロデューサー・出資者が見つからなかった中、日本からはシナリオ・デベロップメント段階から製作を援助、長期にわたってバックアップし続け完成された。日本ではシネマライズ渋谷で1999年10月から19週公開された。
※当館では2Kコンバート上映となります。