真面目で、理屈っぽくて、おっちょこちょい。そんな私は母に勧められて、お茶を習うことになった。二十歳の春だった。
「目の前にあることに気持ちを集中するの!」近所でタダモノじゃないと噂の武田先生は言う。お茶って大変。赤ちゃんみたいに何も知らない。それでも私は土曜日になると必ずお茶に行った。
就職の挫折、失恋、大切な人との別れ。いつも側にはお茶があった。雨の日は雨を聴く。雪の日は雪を見て、夏には夏の暑さを、冬は身の切れるような寒さを。五感を使って、全身で、その瞬間を味わった―。
「日日是好日(にちにちこれこうじつ)」
これは二十四年にわたる、かけがえのない"今"を描く物語。
大学生の典子は、母親から「あんた、お茶習ったら」と突然すすめられる。意味がわからず、困惑する典子。嫌々ながらも従妹の美智子の一押しもあり、共に自宅近くにある茶道教室の先生を訪ねる。その先生は巷で「タダモノじゃない」と噂の、武田のおばさんだった…。
原作『日日是好日』―「お茶」がくれた15のしあわせ』は著者・森下典子が街の茶道教室に通い続けた約25年に渡る日々を綴ったエッセイ。
就職につまずき、失恋や大切な人の死という悲しみのなかで、気がつけば、そばに「お茶」があった。がんじがらめの決まりごとの向こうに、やがて見えてきた自由。季節を五感で味わう歓び。そして「いま、生きている!」その実感に迫る、感動のドラマが誕生する。