真面目で、理屈っぽくて、おっちょこちょい。そんな私は母に勧められて、お茶を習うことになった。二十歳の春だった。
「目の前にあることに気持ちを集中するの!」近所でタダモノじゃないと噂の武田先生は言う。お茶って大変。赤ちゃんみたいに何も知らない。それでも私は土曜日になると必ずお茶に行った。
就職の挫折、失恋、大切な人との別れ。いつも側にはお茶があった。雨の日は雨を聴く。雪の日は雪を見て、夏には夏の暑さを、冬は身の切れるような寒さを。五感を使って、全身で、その瞬間を味わった―。
「日日是好日(にちにちこれこうじつ)」
これは二十四年にわたる、かけがえのない"今"を描く物語。