上映作品

タル・ベーラ 伝説前夜

伝説は
ここから生まれた―。

タル・ベーラはいかにして、唯一無二の映画作家になったのかー
伝説の『サタンタンゴ』以前の足跡をたどる、日本初公開3作を4Kデジタル・レストア版で一挙上映

製作から25年後の2019年に『サタンタンゴ』(1994)が日本で初めて劇場公開され、伝説の7時間18分の全貌が明らかになった、タル・ベーラ監督。ジム・ジャームッシュ、ガス・ヴァン・サント、アピチャッポン・ウィーラセタクンといった映画監督たちに大きな影響を与えてきたタル・ベーラがいかにして自らのスタイルを築き上げ、唯一無二の映画作家になったのか。その足跡をたどるべく、『サタンタンゴ』以前の日本初公開3作『ダムネーション/天罰』『ファミリー・ネスト』『アウトサイダー』を4Kデジタル・レストア版で一挙上映する。
『ニーチェの馬』2011)を最後に56歳という若さで映画監督から引退した後も、熱狂的な支持者を生み出し続けているタル・ベーラの初期傑作群が遂に日本のスクリーンに映し出される。


タル・ベーラ

1955年ハンガリー、ペーチ生まれ。哲学者志望であったタル・ベーラは16歳の時、生活に貧窮したジプシーを描く8ミリの短編を撮り、反体制的であるとして大学の入試資格を失う。その後、不法占拠している労働者の家族を追い立てる警官を8ミリで撮影しようとして逮捕される。釈放後、デビュー作『ファミリー・ネスト』(77)を発表。この作品はハンガリー批評家賞の新人監督賞、さらにマンハイム国際映画祭でグランプリを獲得した。
その後、ブダペストの映画芸術アカデミーに入学。在籍中に『アウトサイダー』(81)、アカデミーを卒業後に“PrefabPeople”(81)を発表。卒業後はMAFILMに勤務した。79年から2年間、ブダペストの若い映画製作者のために設立されたベーラ・バラージュ・スタジオの実行委員長も務めた。
「秋の暦」(84)で音楽のヴィーグ・ミハーイと、『ダムネーション/天罰』(88)では作家のクラスナホルカイ・ラースローと出会い、それ以降すべての作品で共同作業を行う。
1994年に約4年の歳月を費やして完成させた7時間18分に及ぶ大作『サタンタンゴ』を発表。ベルリン国際映画祭フォーラム部門カリガリ賞を受賞、ヴィレッジ・ボイス紙が選ぶ90年代映画ベストテンに選出されるなど、世界中を驚嘆させた。続く『ヴェルクマイスター・ハーモニー』(2000)がベルリン国際映画祭でReader Jury of the “Berliner Zeitung”賞を受賞、ヴィレッジ・ボイス紙でデヴィッド・リンチ、ウォン・カーウァイに次いでベスト・ディレクターに選出される。2001年秋にはニューヨーク近代美術館(MOMA)で大規模な特集上映が開催され、ジム・ジャームッシュ、ガス・ヴァン・サントなどを驚嘆させると共に高い評価を受ける。
多くの困難を乗り越えて完成させた、ジョルジュ・シムノン原作の『倫敦から来た男』(07)は見事、カンヌ国際映画祭コンペティション部門でプレミア上映された。2011年、タル・ベーラ自身が“最後の映画”と明言した『ニーチェの馬』を発表。ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)と国際批評家連盟賞をダブル受賞し、世界中で熱狂的に受け入れられた。
90年以降はベルリン・フィルム・アカデミーの客員教授を務め、2012年にサラエボに映画学校film.factoryを創設。2016年に閉鎖した後も、現在に至るまで世界各地でワークショップ、マスタークラスを行い、後輩の育成に熱心に取り組んでいる。フー・ボー(『象は静かに座っている』)や小田香(『セノーテ』)などの映画監督が彼に師事しており、2021年カンヌ国際映画祭でA24が北米配給権をピックアップして話題となった「Lamb」のヴァルディマー・ヨハンソンもfilm.factoryの出身。タル・ベーラは同作のエグゼクティブ・プロデューサーも務めている。
インスタレーションや展示も積極的に手掛け、2017年にアムステルダムのEye Filmmuseumで’Till the End of theWorld”、2019年にはウィーンで“Missing People”を開催している。

│FILMOGRAPHY│

1977 『ファミリー・ネスト』
1978 Hotel Magnezit (短編)
1981 『アウトサイダー』
1982 Macbeth(TV)
1982 Prefab People
1984 「秋の暦」
1988 『ダムネーション/天罰』
1989 City Life(オムニバス映画の一編)
1994 『サタンタンゴ』
1995 Journey on the Plain(短編)
2000 『ヴェルクマイスター・ハーモニー』
2004 Visions of Europe / “Prologue”segment (オムニバス映画の一編)
2007 『倫敦から来た男』
2011 『ニーチェの馬』

*英題は日本未公開、「 」は日本では映画祭のみ上映