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生誕90周年上映 フランソワ・トリュフォーの冒険

映画が彼の人生すべてだった。

  
【鑑賞料金】
一般1,600円/大学生1,300円/シニア(60歳以上)1,200円
映画サービスデー(7/1)・水曜サービスデー1,200円
TCG会員1,300円/会員サービスデー1,100円


PROFILE

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1932年2月6日、パリ生まれ。八歳まで主に母方の祖母および(義)父方の祖父母の手で育てられる。彼らが歳を取り過ぎて孫の世話をすることができなくなった後で、両親と暮らすようになる。だが劣悪な家庭環境(母の愛を得られず、義父のことも尊敬できなかった)が原因で、しばしば学校をズル休みして、映画館を逃避の場とした。何度も放校された挙句、14歳のときに独学を決意。学びの場は映画と書物だった。48年より親友ロベール・ラシュネーと共にシネクラブを主催し始め、シネクラブ活動を通じて映画批評家アンドレ・バザンと出会う。この代理父的存在から経済面および精神面の支えを得つつ、職業的にも人間的にも多大な影響を被った。バザンを介して創刊されて間もないカイエ・デュ・シネマ誌に参加、映画批評家として活動を開始するが、その容赦のない評論文の数々で「フランス映画の墓堀人」の異名をとる。54年、フランス映画界の現状批判を展開し、旧弊な価値観の転覆を図った論文「フランス映画のある種の傾向」が物議を醸す。この論文は映画の真の作り手を監督とみなす、いわば過激な「作家主義」宣言でもあった。こうした姿勢の延長上に、アルフレッド・ヒッチコックへの長時間にわたる取材に基づく著作『映画術』(山田宏一、蓮實重彦訳、晶文社)がある。50年代半ばよりみずから短編映画を監督し始め、その後長編第一作『大人は判ってくれない』(59)を発表。多分に自伝的要素を含む同作によりカンヌ国際映画祭で監督賞を受賞し、一躍世界から注目されると共に「ヌーヴェル・ヴァーグ」映画勃興の一翼を担う。また『大人は判ってくれない』は、当時14歳だった俳優ジャン゠ピエール・レオーとの長きにわたる協働関係の始まりをも告げた。中でもこの映画でレオーが演じたアントワーヌ・ドワネルの成長を主題とし、それを人間=俳優レオーの成長と重ねた連作は有名。半自伝的映画作りと並行して、スリラー、ロマンス、喜劇、SF等さまざまな領域に挑戦しつつ、数多くの秀作を発表し続ける。1984年10月21日、脳腫瘍により52歳の若さで死去。30本映画を撮ったら監督を引退し、著述家として晩年を過ごす予定だったといわれるが、目標に五本満たない全部で25本の長短編映画(共同監督作を除く)を遺すことになった。

礼儀正しさと機転

『夜霧の恋人たち』で、アントワーヌ・ドワネル(ジャン=ピエール・レオー)は、
ひそかに恋こがれる年上の美しいタバール夫人(デルフィーヌ・セイリグ)を目の前にしてすっかり上がってしまい、
女の人にはマダムと言わなければならないところをムッシューと口走ってしまい、おどろくタバール夫人に弁解もできずに、
ただもうショックで逃げだしてしまう。すると、タバール夫人からの手紙が追いかけて来てこんな洒落たたとえ話を伝えるのです ―
男の人が浴室に入ったら、すでに女性が入浴中でした。「失礼しました、マダム」と言えば、それはとても礼儀正しいことです。
でも、もし、「失礼、ムッシュー」と言ったら、それは機転です。
繊細なユーモアにあふれた映画作家、フランソワ・トリュフォーの人間味がじつによく出ている忘れがたいシーンです。
「わたしのつくりたい映画の主題は、結局は愛の物語と子供の話です。もし映画監督を難破船の船長にたとえることができるなら、
「女と子供を先に救え!」という船長の言葉をわたしの映画監督としてのスローガンにしたいと思います」とトリュフォーは書いています。
パリ、エッフェル塔。
海に向かって走りつづける少年。
自転車、ひるがえるスカート。
教育か愛か。野性の少年に人間社会への復帰の希望はあるのだろうか。
コミカルなフィルム・ノワール?野性の少年のように奔放に裸足で走り回って、
おふざけいっぱいに男たちを死に追いやる私のように美しい淫らなあばずれ娘の行状記。パリへ!パリへ!幸運の数字はいつも813。
その時キャメラは回っていた…8ミリマニアの大人ぶった少年が笑わせる。
ロウソクの炎。死に至る病のように残酷で苦しい姉妹の愛のクロニクル。
この紙はあなたの肌、このインクは私の血。遺言のように手紙を書きつづける女。一途な愛。ロダン美術館の庭のバルザック像。
そして何よりも、映画的な、あまりに映画的な人生。

 山田宏一 (映画評論家)