失意の映写技師が眠りに落ち、映画の世界へ入り込むシュルレアリスティックな中編『探偵学入門』。『カイロの紫のバラ』や『ラスト・アクション・ヒーロー』など後年の作品にも影響を与えた「映画についての映画」の傑作だ。
併映の『文化生活一週間』はキートンが独立プロを立ち上げて最初に公開された短編。新婚さんが組み立て式新居のDIYに奮闘するが完成したのはカリガリ博士もびっくりの表現主義的マイホームだった!
(1924年/アメリカ/45分)
併映:『文化生活一週間』(1920年・アメリカ・22分)
『警官騒動』は無声喜劇ギャグのお約束「追っかけ」の究極形だ。キートンを追って画面上に無限に広がる警官の大群はいやが上にも超現実感をもたらす。
『海底王キートン』はキートンの長編中最もヒットした作品。レアな潜水シーンは透明度の高いタホ湖で撮影されたが、水が冷たすぎて一度に30分しか撮影できなかったという。キートンと共に船上サバイバルに挑むヒロインは『探偵学入門』でも共演したキャスリン・マクガイア。監督に『散り行く花』(1919)の俳優ドナルド・クリスプがクレジットされている。
(1924年/アメリカ/65分)
併映:『警官騒動』(1922年・アメリカ・18分)
土曜日に警官軍団に追っかけられるキートン、日曜日は花嫁軍団に追っかけられる!
『セブン・チャンス』の原作はブロードウェイの舞台で当初キートンは乗り気でなかったが、映画後半の怒涛のアクションで巻き返した。ベルモンドの『華麗なる大泥棒』にも通じる(?)落石アクションは必見!
併映はキートンの記念すべき映画デビュー作。主演のロスコー・アーバックルは当時の大スターでキートンの映画の師である。修行時代のキートンの初々しい姿を見ることができる。
(1925年/アメリカ/56分)
併映:『ファッティとキートンのおかしな肉屋』(1917年・アメリカ・25分)
キートンのお気に入りだったという隠れた名作。草食系おぼっちゃまが男を磨くため山にこもるが、同姓同名のプロボクサーと間違われ試合に出るハメに。
おぼっちゃまと彼を溺愛する執事とのバディぶりが本作の見どころだ。主人を支える健気な執事を思わず応援したくなる。演じるのは『バグダッドの盗賊』(1924)などで知られる名優スニッツ・エドワーズ。またマーティン・スコセッシは『レイジング・ブル』(1980)の撮影にあたり『拳闘屋』の雰囲気を参考にしたという。
(1926年/アメリカ/77分)
南北戦争時代の実話を基にしたキートン最大の野心作。北軍のスパイが「将軍号」を強奪し、南部の機関士が単身追いかけてゆく。
本作の主役は2台の蒸気機関車だ。実生活でも鉄オタだったキートンはこの映画の制作に持てる力のすべてを注いだ。列車が橋から落ちるショットは無声映画で最もカネのかかったショットと言われる。オーソン・ウェルズは「南北戦争を最も忠実に再現した映画」と高く評価した。追いつ追われつの構成は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)に影響を与えたのではとも思わせる。
(1926年/アメリカ/79分)
東部の大学を卒業した息子とミシシッピ川で古い蒸気船を所有する父親が十数年ぶりに再会。立派な後継者を想像した父の前に現れたのはチャラい腰抜け青年だった。
頑固親父を演じるアーネスト・トレンスは『ピーターパン』(1924)のフック船長など悪役を得意とした。本作には「壁がキートンの上に倒れる」超有名なショットがある。今なお「映画史上最高のスタント」と言われ数多くのオマージュやパロディが捧げられている。
(1928年/アメリカ/71分)
『大列車追跡』の興行的失敗などにより自社撮影所を閉鎖せざるを得なかったキートンが、MGM社の専属となって最初に撮った作品。慣れ親しんだスタッフたちと協働したほぼ最後の映画になる。この後、映画界がトーキーへ移行してゆく中でキートンはMGMから制作への関与を禁じられ映画創作の自由を失ってゆく。
『カメラマン』はニューヨークでロケ撮影された。当時のヤンキー・スタジアムでのキートンの「ひとり野球」は屈指の名場面である(キートンは無類の野球好きだった)。
(1928年/アメリカ/76分)