上映作品

ジャン・コクトー映画祭

20世紀最高の芸術家による珠玉の傑作が、
美しい映像でスクリーンに甦る

「詩人の血」と「美女と野獣」は初の4Kデジタルリマスター版での上映


『詩⼈の⾎ 4Kデジタルリマスター版』 Le Sang d’un Poète

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1932年/フランス/モノクロ/50分

監督・脚本:ジャン・コクトー 撮影:ジョルジュ・ペリナール 衣装:ココ・シャネル
出演:エンリケ・リベロ、エリザベス・リー・ミラー

コクトーが映画というメディアで初めてイマジネーションをあますことなく解き放った記念すべき作品にして、サルバドール・ダリ×ルイス・ブニュエルの『アンダルシアの犬』(1928)と並ぶアバンギャルド・カルト・クラシック!四つのエピソードからなる本作にはギリシャ神話の要素や鏡、雪合戦といった後の『オルフェ』や中編小説「恐るべき子供たち」と共通する描写が散りばめられ、挑戦的な特殊効果によって事物が神秘的に息吹くさまを表現している。直線の物語から解放され、場所や時を自由自在に選び出し、舞台を作り出し、夢を記録し、死まで飛び越えて浮遊する。「ぼくは目に見えるぼくの血と、目には見えぬ血、肉体の血と魂の血でこの映画を作りました」──ジャン・コクトー(アンナ・ド・ノアーユに宛てた手紙より)

©︎1930 STUDIOCANAL

『ブローニュの森の貴婦⼈たち デジタルリマスター版』 Les Dames du Bois de Boulogne

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1944年/フランス/モノクロ/86分

監督・脚本・脚色:ロベール・ブレッソン 原作:ドゥニ・ディドロ 台詞監修:ジャン・コクトー 撮影:フィリップ・アゴスティーニ
出演:ポール・ベルナール、マリア・カザレス、エリナ・ラブルデット

誇り高い貴婦人エレーヌは恋人ジャンの愛を試そうと別れ話を持ちかけるが、ジャンはあっさりと同意し、エレーヌは自分に対する愛情はもう冷めていることを知る。復讐を企む彼女は残酷な計略をめぐらすが…。孤高の映像作家ロベール・ブレッソンがドゥニ・ディドロによる小説「運命論者ジャックとその主人」を原作に脚色、トリュフォーやゴダールたちに多大な影響を与えた。当時無名だったブレッソンの為にコクトーは台詞監修のクレジットを引き受けたという。ブレッソンはコクトーとの友情について「二人とも自分の魂の全てを作品にこめているという点で確かだった」と述べている。彼らの交流は長く続き、コクトーは自らの死の1週間前にもブレッソンに手紙を送っていた。

© 1945 TF1 Droits Audiovisuels

『美⼥と野獣 4Kデジタルリマスター版』 La Belle et la Bête

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1946年/フランス/モノクロ/94分

監督・脚本:ジャン・コクトー 原作:ジャンヌ=マリー・ルプランス・ド・ボーモン撮影:アンリ・アルカン
出演:ジャン・マレー、ジョゼット・デイ、ミラ・パレリ

時代を超えて何度も映像化され、愛され続ける御伽噺<美女と野獣>を初めて実写映画化したのはコクトーだった。当時の恋人で長年の公私におけるパートナー、ジャン・マレーを野獣/王子に抜擢し、息をのむほど艶やかで仄かな官能が香りたつ幻想譚を生み出した。豪奢なコスチュームや耽美で独創的なインテリアといった、魅力的な美術デザインを担当したのはディオールやシャネルとも仕事を重ねたクリスチャン・ベラール。コクトーが表現しようとしていた、ギュスターヴ・ドレの挿絵の世界と映画を結びつけることに成功した。撮影は『ローマの休日』(1953)、『ベルリン・天使の詩』(1987)の名匠アンリ・アルカン。試写では、マレーネ・ディートリッヒがコクトーの手を握りながら鑑賞したという。

©︎ 1946 SNC (GROUPE M6)/Comité Cocteau

『オルフェ デジタルリマスター版』 Orphée

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1950年フランス/モノクロ/95分

監督・脚本:ジャン・コクトー 撮影:ニコラス・エイエ
出演:ジャン・マレー、フランソワ・ペリエ、マリア・カザレス、マリー・ディア

死んだ妻に会うために冥界へ向かう男の悲恋を描いたギリシャ神話のオルフェウス神話もコクトーの手にかかれば、1950年代のパリにて、死の王女に思いを寄せる詩人の物語と変身する。『詩人の血』にも登場した鏡というアイテムが今度は冥界へと続く扉となり、恐ろしくも優雅な旅路へと誘う。また、カーラジオから流れる詩などミステリアスかつ耽美な要素が散りばめられつつも、死神の付き人を思わせる黒装束のバイカーや街中での追走劇などが当時のパリの風景の中で描かれ、通俗性を兼ね備えた活劇としての魅力も充分。主人公オルフェを演じるのはジャン・マレー。死の王女役には『ブローニュの森の貴婦人たち』、ジェラール・フィリップと共演した『パルムの僧院』(1948)で知られるマリア・カザレス。異界の美しい住人を圧倒的な存在感で演じ切り、説得力を与えている。

© 1950 SND (Groupe M6)

ジャン・コクトー Jean Cocteau

詩人、小説家、劇作家、画家、役者、映画監督、その多彩な活動から<芸術のデパート>と呼ばれたジャン・コクトーは1889年7月5日、パリの裕福な家庭に末っ子として生まれる。8歳の時、アマチュアの画家でもあった父が謎のピストル自殺。20歳ごろから社交界、裏社交界に出入りするようになり、雑誌や新聞に寄稿、詩人として頭角を現し、マルセル・プルーストやモディリアーニ、ココ・シャネル、ストラヴィンスキーと様々な業界のアーティストたちと交流を深めていく。アンドレ・ブルトンらシュルレアリストたちとの対立、長編処女小説「肉体の悪魔」によって時代の寵児となるレーモン・ラディゲとの出会いとラディケの死、阿片中毒と解毒治療……病と死が深く陰影を落とし、生活や精神の均衡が崩れるときも彼は頑なに表現活動を続けた。映画の処女作は『詩人の血』(1932)。1937年にはその後、長年にわたって公私のパートナーとなる俳優ジャン・マレーと出会い、『美女と野獣』(1946)、『恐るべき親達』(1948)、『オルフェ』(1950)といった傑作を手がける。
小説の代表作は「大胯びらき」(1923)、「白書」(1928)、「恐るべき子供たち」(1929・ジャン=ピエール・メルヴィル監督によって1950年に映画化)、戯曲では「オイディプス王」(1937)、「双頭の鷲」(1946)など。日本では堀口大學に訳され、三島由紀夫、堀辰雄、寺山修司、澁澤龍彦ら多くの作家に色濃く影響を与えた。1963年10月11日、友人エディット・ピアフの死去を耳にして容態が急変、永眠する。ジャン・マレーは1999年に85歳で亡くなるまで、コクトー作品を舞台で演じ続けたという。
ジャン・コクトーという不滅の星──小説に、演劇に、映画に、あらゆるジャンルの垣根を飛び越え、聖なる愛や生、死を、そして真実以上の<真実>を描き出したコクトー。その作品の数々は永遠に新しく、天体のようにきらめいて、我々に微笑み続けることだろう。