17歳のサーリャは、生活していた地を逃れて来日した家族とともに、幼い頃から日本で育ったクルド人。現在は埼玉の高校に通い、親友と呼べる友達もいる。勉強もがんばっていて、大学推薦が十分に狙える成績だ。将来は小学校の先生になりたい、という夢もある。
サーリャの母は数年前に亡くなり、今は父・マズルム、妹のアーリン、弟のロビンとの4人暮らし。日本語ができないクルド人の親戚や知人から頼まれて、彼らの生活に必要なことをサポートすることも、サーリャの役目である。
家ではクルド料理を食べ、食事の前にはクルド語の祈りを捧げる。「クルド人としての誇りを決して失わないように――」そんな父の強い願いに反して、子どもたちは、ごく一般的な日本の同世代の少年少女と同じように"日本人らしく"育っていた。
大学進学の資金を貯めるため、父に内緒で始めたバイト先で、サーリャは東京の高校に通う聡太と出会う。自転車で帰宅する道すがら、交流を深めていく2人。寄り道した河川敷で、サーリャは聡太に、初めて自分の生い立ちを打ち明ける。一緒に過ごし、語り合う時間を重ねるうちに、いつしか聡太はサーリャにとって大切な存在になっていく。
ある日、チョーラク一家は、出入国在留管理局から、難民申請が不認定となったことを言い渡される。在留資格を失い、"仮放免"という状態になったサーリャたちは、今後、許可なしでは居住区である埼玉県から出られなくなり、就労までも禁じられる。さらに追い打ちをかけるように、父・マズルムが入管の施設に収容され、サーリャが進学を目指していた大学の推薦も白紙になってしまう......。