兄の無罪を信じて64年―いつか真実が分かるその日まで、「いもうと」は生きる。
1961年、三重と奈良にまたがる集落・葛尾で凄惨な事件が起こった。村の懇親会で振舞われたぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡。世にいう名張毒ぶどう酒事件である。犯人と目されたのは、奥西勝(当時35歳)。客観的証拠はなく、あるのは自白調書のみ。一審判決では無罪を勝ち取ったが、二審では一転して死刑判決が言い渡される。以降、無実を訴え続けるも、奥西は89歳で獄中死した。
先月9月26日、通称「袴田事件」の再審公判で、袴田巖さん(88)の無罪が言い渡された。事件発生・逮捕から実に58年を経た無罪判決だ。本映画にも判決後の袴田さんの表情が捉えられているが、今回の判決では、捜査機関による「自白の強要」「証拠の捏造」が認められた。
一方、被告が亡くなった名張事件で再審請求を引き継いだのは妹の岡美代子。弁護団を結成し、新証拠を出し続けるが、再審の扉は開かない。遂に10度目の再審請求も幕を閉じ、棄却され続けた月日はなんと半世紀。再審請求は配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹しかできない。美代子は現在94歳。美代子がいなくなれば、事件は闇の彼方に消える。残された時間はそう長くはない。それでも兄の無罪を信じ、長生きを誓う。あまりにも長く辛い「いもうとの時間」は果たしていつまで続くのか。
名張事件を取材し続けて46年、東海テレビの名張事件ドキュメンタリーは8作目となる(映画化は4度目)。名物プロデューサー阿武野勝彦が東海テレビを退職する最後の題材に選んだのが名張事件だった。『人生フルーツ』『ヤクザと憲法』『さよならテレビ』を生んだ東海テレビドキュメンタリー劇場の第16弾。取材を引き継いできたディレクターたちの思いを結集させ、裁判の非道ぶりを叫ぶ。
2024年2月に東海テレビローカルで放送された番組を追加取材・再編集した劇場版。