10 / 23 [金] 公開
1970年代中頃のニューヨーク。荒廃したロウアー・イーストサイドの片隅にあった小さなライブハウスCBGB。後にパンク誕生の地として音楽史に名を刻むことになる、この物語の舞台だ。映画『CBGB』は、創設者ヒリー・クリスタルと、名も無き若者たちが新たな音楽シーンを発生させた過程を描いた伝記ドラマだ。店名の「CBGB」は"Country, Bluegrass and Blues"の頭文字を並べたものだが、不思議なことに看板とは全く異なる音が夜毎鳴らされていた。ヒリーが掲げた出演条件は"オリジナル曲"。当時としては珍しいこのルールが、表現の場を追いやられた、曲者(パンクス)バンドを引き寄せたのだろう。主人公ヒリーを演じるのは『ハリー・ポッターシリーズ』スネイプ先生役で知られるアラン・リックマン。「何時間も映像を見て観察した」と本人が語るように、リアリティ溢れる演技を見せてくれる。壁の落書きや無数に貼られたフライヤー、電話帳やレジスター、悪名高き汚すぎるトイレまで、細部にわたって忠実に再現したセットは圧巻の出来栄えだ。またテレビジョン、トーキング・ヘッズ、ラモーンズ、パティ・スミス、デッド・ボーイズ、イギー・ポップ、ルー・リードらを演じる役者陣の、熱量も素晴らしい。実際の音源に合わせた演奏シーンは鳥肌ものだ。また同時期に創刊された同人誌『Punk Magazine』誕生の瞬間を描いているのもスリリングだ。編集者ジョン・ホルムストロムらが手探りで雑誌を作り、"パンクロック"というカテゴライズを世界で初めて発信した、その瞬間こそが、"パンクロック"という文化が明確な名前を得た瞬間だったと言えるだろう。音楽とアート、雑誌メディア、全てがCBGBの周りで激しい化学反応を起こしていたのだ。2002年ロックの殿堂入りの際に、トーキング・ヘッズのデビッド・バーンは「もう一度ヒリーに感謝したいと思います。僕たちが活動を始めた頃は、オリジナル曲を演奏できるクラブなんて本当にほとんどなかったんです。」とスピーチで語った。その約20年後には、映画『アメリカン・ユートピア』で、CBGB、トーキング・ヘッズも知らない若者たちをも、オリジナリティ溢れるパフォーマンスで熱狂させたのだ。ヒリーが信じた"オリジナルであること"の精神は、半世紀を経た今もなお、パンクスピリットとして生き続けている。
相次ぐ店の失敗と離婚で人生のどん底にいたヒリーは、再起を懸けてカントリーバー「CBGB」を開業する。ステージも配線も水回りもDIYだ。しかし、店は閑古鳥が鳴くばかり。そんなある日、無名のロックバンド、テレヴィジョンが現れる。唯一の出演条件は“オリジナル曲”。聴いたことのない独特なギターサウンドと「知るもんか」(I Don’t Care)とニヒルに歌う彼らに、ヒリーは「何かある」と予感する。やがてCBGBには才気あふれる“何かある”若者たちが次々と集結し、夢破れた男の、ちっぽけなバーは世界のロックシーンを変える“パンクの聖地”へと変貌していくのだった。